OpenAIがChatGPT向けの広告戦略を検討開始

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OpenAI は、急速に拡大するユーザー数を収益化する手段として、ChatGPT における広告戦略を検討しています。
The Information が報じました。

方針転換

ChatGPT のユーザー数は、2022 年の公開以降、週次アクティブユーザー数が約 9 億人にまで急増しています。
OpenAI にとってこの数値は通過点に過ぎず、2030 年までに週次アクティブユーザー数を 26 億人に拡大する野心を掲げています。

その規模に達すれば、世界のデジタル広告市場の約 60% を支配する Google、Meta、Amazon といった既存大手に挑戦できる立場となります。

OpenAI CEO の Sam Altman(サム・アルトマン)氏は以前、広告を軽視する発言をしていました。
しかし、デジタル広告分野のベテラン人材を採用し、非課金ユーザーからの年間平均収益が、現状の約 2 ドルから 10 年末までに 15 ドルへ成長するとの予測を示しています。
現在、週次ユーザーのうち約 5% しか ChatGPT のサブスクリプションに課金していないことを踏まえると、広告はこの収益ギャップを埋める手段のひとつとして評価されています。

検討されている広告メカニズム

既存の広告フォーマットをそのまま模倣するのではなく、会話型インターフェースに特化した広告コンセプトを OpenAI は実験しています。

  • スポンサード回答: 明確なコマーシャル意図があるクエリに対して、スポンサード情報を優先的に表示するよう AI モデルを調整する可能性があります。たとえば、ユーザーがマスカラのおすすめを ChatGPT に尋ねた場合、Sephora がスポンサーとなった美容製品が回答内に表示されるといった形です。
  • セカンダリー・ステップ広告: 影響を最小限に抑えるため、広告はユーザーが追加のアクションを取った後にのみ表示される可能性があります。たとえば、ユーザーがバルセロナ旅行の行程作成を ChatGPT に依頼した場合、最初の段階ではサグラダ・ファミリアの訪問が非スポンサードで提案されます。その後、詳細情報のリンクをクリックすると、有料のサグラダ・ファミリアツアーを提供する旅行事業者へのスポンサードリンクを示すポップアップが表示される、といった仕組みです。
  • 視覚的分離: 社内モックアップには、メインの ChatGPT 回答ウィンドウの横に専用サイドバーとしてスポンサードコンテンツを配置し、それが広告であることを示す開示を伴わせる案が含まれています。これにより、広告は中核的な回答から視覚的に明確に区別されます。

課題と制約

広告の導入計画を進めるなかで、いくつかのハードルに OpenAI は直面しています。

まず、ユーザーの信頼とプライバシー保護です。
社内では、会話が「スポンサードコンテンツで埋め尽くされる」ことや、個人的な会話が広告に影響するとの認識に、ユーザーが反発するのではないかという懸念があります。

また、OpenAI の長期的目標である AGI(汎用人工知能)開発と広告推進は哲学的に相反すると見ている社員も一部にはおり、社内の抵抗感が存在します。

現時点での限られたコマーシャル意図の ChatGPT 利用にも課題が残ります。
6 月時点で、購入可能な商品に関連する ChatGPT のクエリは全体の 2.1% にとどまっており、広告が本格的に拡大するにはユーザー行動の変化が必要であることを示しています。

広告代理店やブランド側は広告参加に前向きであるものの、OpenAI からのコミュニケーションは限定的で、具体的な詳細がほとんど示されていないとのことです。
こうした広告主との未成熟な関係も解決しなければなりません。

ここまで挙げた状況を踏まえると、現状では、OpenAI における広告は不可避というよりも実験段階といえます。
スポンサード商品のレコメンドやセカンダリー・ステップの旅行オファーといった具体例に支えられた広告コンセプトをテストしつつ、ユーザーの信頼と社内文化、そして進化するユーザー行動を慎重に評価し始めたばかりです。