AI転換点に立つジャーナリズム:2026年におけるトラフィック喪失、クリエイター台頭、そして独自性の戦い

[レベル: 上級]

Reuters Institute(ロイター・インスティテュート)が、AI時代のメディアをとりまく変化とその対応について調査レポートを発表しました。

2025 年 11 月 18 日から 12 月 20 日にかけて実施された、280 名のシニアメディアリーダーを対象とするクローズドなオンライン調査に基づいています。
回答者は、編集長、CEO、マネージングディレクター、デジタル部門責任者などの戦略的役職に就いていることを条件に意図的に選定されており、51 か国にわたる既存メディア、デジタルネイティブメディア、放送系ニュース組織を代表しています。

メディア企業にとって非常に有用なレポートです。
Web担当者Forum 連載コラムの先週のトップで取り上げましたが、一部にとどまっていたので、このブログで包括的に紹介します。

主要なポイント

まず、調査レポートの主要なポイントを簡潔にまとめます。

  • トラフィックの混乱――Google の AI Overviews や AI チャット型インターフェースがクリックなしでユーザーの意図を満たすケースが増えるなか、パブリッシャーは今後 3 年で検索エンジンからの参照トラフィックが 40% 超減少すると予測している。
  • 独自性への転換――AI と競争するため、次の施策にメディア企業は一層注力している:
    • 現地でのオリジナル取材
    • 文脈的分析
    • ヒューマンストーリー(人間の感情や関係性を描いた物語)
    • クリエイターの波――若年層のオーディエンスを獲得する独立系インフルエンサーへの対応として、76% のパブリッシャーが、よりクリエイター的な振る舞いを記者に求める計画を立てている。
    • 運用段階の AI――AI は実験段階から運用段階へ移行しており、97% のリーダーがバックエンドの自動化を重要と考えている。一方、AI の影響を変革的と表現するのは現在 13% にとどまる。
    • 動画化――動画主導のプラットフォームへの明確なシフトが進んでいる。YouTube と TikTok が 2026 年に向けた主要な優先配信先として挙げられている。

    分析の詳細

    調査レポートの主要点の詳細です。

    アンサーエンジンの台頭とトラフィック侵食

    従来の検索エンジン最適化(SEO)からアンサーエンジン最適化(AEO)への移行は、コンテンツ発見の構造的変化を意味しています。

    • 検索の減少:Chartbeat の集計データによると、Google 検索からのトラフィックは 2024 年 11 月 〜 2025 年 11 月の間に、世界全体で 33%、米国では 38% 減少した。
    • ゼロクリック検索:米国の検索結果の約 10~15% に表示される AI Overviews は、パブリッシャーのサイトをユーザーがクリックしない可能性を大きく高めている。
    • チャットボットからの参照:急速なユーザー増加にもかかわらず、チャットボットからの参照は依然としてごくわずかである。ChatGPT は全パブリッシャー参照トラフィックの約 0.02% を占めるに過ぎず、Google 検索(7.3%)や Google Discover(13.0%)と比べて極めて小さい。

    コンテンツ戦略の転換:人間 vs. 機械

    AI システムが再現しにくい分野へとコンテンツ構成をパブリッシャーは再調整しています。

    • 優先度が下がるコンテンツ:ニュースルームは、次のタイプの記事を縮小する計画である。これらは AI によって直接回答されるケースが増えている。
      • サービスジャーナリズム
      • 一般ニュース
      • エバーグリーンコンテンツ (Evergreen Content)
        ※公開から時間が経過しても価値が古くならず、長期間にわたって読者の関心を集め続けるコンテンツ
      • Q&A 形式のコンテンツ
    • 高付加価値ジャーナリズム:次のような施策へと投資先は移行している。
      • オリジナル調査報道
      • コンテクスチュアル・フレーミング (Contextual Framing)
        ※情報を提示する際の「文脈(背景・状況)」や「枠組み」を工夫することで、受け手の解釈や意思決定に影響を与える手法
      • ファクトチェック
      • オピニオン
      • ライブジャーナリズムやイベントを通じたコミュニティ形成
    • リキッドコンテンツ:この論文では「リキッドコンテンツ (Liquid Content)」を、記事を柔軟な原子的オブジェクトとして扱い、AI によって形式、プラットフォーム、ユーザー文脈に応じて適応させるアーキテクチャ上の転換として紹介している。

    クリエイターエコノミーと組織的対応

    プラットフォームの動画化が加速し、個人クリエイターの台頭と組織ブランドの支配力低下が進んでいます。

    • 注意対象の競合:パブリッシャーのコンテンツから時間と関心をクリエイターが奪っていることを、ニュース幹部の 70% が懸念している。39% は、主要な編集人材の流出を恐れている。
    • 戦略:パブリッシャーの対応には次が含まれる。
      • 配信目的でのクリエイターとの提携
      • クリエイターの採用
      • クリエイタースタジオやジョイントベンチャーの設立
    • 収益モデル:人材維持は、Substack や YouTube のようなクリエイター主導プラットフォームに対抗するため、Vox Media や The Independent の最近の事例に見られるような収益分配契約への依存が高まっている。

    ニュースルームにおける AI:効率性と課題

    AI の導入はほぼ普遍的となりましたが、具体的な成果にはばらつきがあります。

    • ユースケース:バックエンドの自動化が最優先事項であり(64% が「非常に重要」と評価)、次いでコーディングおよびプロダクト開発(44%)、商業用途(33%)、取材活動(29%)が続く。
    • 雇用への影響:パブリッシャーの 67% は AI による人員削減はないと報告し、16% は小規模な削減、9% は AI 関連職種による雇用増加を報告している。
    • エージェント型 AI:回答者の 75% は、エージェント型 AI ツールが大きい、または非常に大きい影響を持つと予測しており、合成リサーチ、シナリオプランニング、調査支援といったより複雑なワークフローを可能にすると見ている。

    誤情報と「スロップ」への反発

    AI 生成コンテンツの爆発的増加は、信頼性の課題を深刻化させる一方で、検証されたジャーナリズムにとっての差別化機会も生み出しています。

    • AI スロップとピンクスライム:検索アルゴリズムを操作することを目的とした、AI 駆動の偽ローカルニュースサイトを含む、低品質な自動生成コンテンツがプラットフォームに氾濫している。
    • デジタル来歴:コンテンツ検証のための C2PA 標準の採用は極めて重要と見なされているが、現時点でこのメタデータを含むニュース画像や動画は 1% 未満にとどまる。
    • ワークスロップ:低品質な AI 生成の業務文書、プレゼンテーション、メールに対する反発が確認されており、プラットフォーム全体のエンシティフィケーション(enshittification: 劣化)への懸念を助長している。

    以上です。

    SEO の本質は変わらないとしても、AI 検索と AI チャットの普及に合わせて施策を柔軟に変革していくことは重要です。
    このレポートは、そうした変革のための有用なヒントになるでしょう。