検索へのAI統合は「拡大の瞬間」、Google検索SVPが語る

[レベル: 中級]

Google の Knowledge and Information 部門 SVP である Nick Fox(ニック・フォックス)氏が、AI Inside のインタビューを受けました。

検索への AI 統合は「拡大の瞬間(expansionary moment)」であり、ウェブを縮小させるのではなく、新たなクエリタイプとオープンウェブへの機会を創出するものだとフォックス氏は述べます。
AI Mode の急速な普及と、トラフィック送客と商業契約を通じた報道機関との提携戦略、そしてジェネレーティブなユーザーインターフェースや個人の文脈の統合といった今後のイノベーションについても触れています。

キーポイント

インタビューの重要ポイントは次のとおりです。

  • AI 検索の普及: AI Mode は全世界の DAU (1 日あたりのアクティブユーザー数)が7,500 万人に達した。ユーザーは従来の検索と比べて 2〜3 倍長く、より複雑なクエリを入力している。
  • AI が創出する拡大: 「AI vs. ウェブ」というゼロサム的な見方は正しくなく、能力の向上が検索行動の増加とトピックの深掘りを促し最終的に高品質なサイトに利益をもたらす。
  • パブリッシャー戦略: AI ファーストの世界で生き残るために、コンテンツ制作者は基本的な情報コンテンツではなく、AI による要約では代替できない、次の要素に注力する必要がある。
    • 真正性 (Authenticity)
    • 深い専門知識 (Deep expertize)
    • 人間味 (Humanity)
  • ニュース業界との連携: フォックス氏は、パブリッシャーとの摩擦を認めつつも、「ニュース API」の概念に同意し、トラフィック/リンクの送客と直接的な商業契約(現在 3,000 以上の組織と締結)というデュアルアプローチの提携モデルを強調する。
  • 次世代機能: Google は Gemini 3 Pro を展開しており、「ジェネレーティブ・レイアウト」(計算機のような UI のための動的なコード生成)を実現し、個人の文脈(Gmail/Docsデータ)を検索に安全に統合する取り組みを進めている。

ウェブと検索の現状

現在の時代を「拡大期」とフォックス氏は定義し、検索の有用性が高まるにつれ、全体的な利用量も増加すると主張します。

パブリッシャーのトラフィック減少への懸念に対しては、あるサイトでトラフィックが 50% 減少したのは AI Overviews の導入前だったという事例を引用し、内部データは外部レポートと矛盾することが多いと指摘しました。

信頼できるパブリッシャーを支援するため、ユーザーが特定の出版物を Top Stories(トップニュース)でより目立つように表示できる機能である Preferred Sources(優先ソース)を展開したことにもフォックス氏は触れました。

AI Mode の進化とユーザー行動

導入以来、AI Mode はチャットボットと従来の検索エンジンの間に位置する独自の製品領域へと進化しています。

  • ユーザー属性: 利用開始が最も早いのは初期導入市場(米国)や、学習目的で利用する若年層。ウェブの発達が遅れている市場(インドネシア、ブラジルなど)では、AI の言語横断的な合成能力に独自の価値が見出されている。
  • クエリ パターン: ユーザーはキーワードベースの検索から、会話形式や個人的な質問(「私(I / me)」を使用する形式)へと移行している。
  • 統合: アクセスを効率化するため、Chromeのオムニボックス(アドレスバー)に専用の AI ボタンが追加された。 オムニボックスから AI モード

ニュースエコシステムとジャーナリズム

AI 企業とニュースパブリッシャー間の緊張関係についてもインタビューの話題が及びます。

ニュース組織が API を作成して AI エージェントに積極的にコンテンツを供給すべきで、コンテンツを隠すことは市民的義務の放棄であるという提案にフォックス氏は同意を示しました。

Google の優先事項はユーザーが求めているもの(現在は AI 主導の回答)を提供することであり、同時にトラフィック送客と金銭的パートナーシップを通じて、質の高いジャーナリズムの持続可能なモデルを維持することだと述べます。

将来のイノベーション:Gemini 3 Proとパーソナルコンテキスト

新しい Gemini 3 Pro モデルを活用した技術ロードマップの概略をフォックス氏は説明しました。

  • ジェネレーティブ・レイアウト: モデルがその場でコードを生成し、単なるテキスト回答ではなく、「太陽系シミュレーター」や「心拍数計算機」といった特定のクエリに合わせた専用のユーザーインターフェースを作成できる。
  • インテリジェント・ルーティング: 速度を維持するため、複雑さに応じてクエリを最も効率的なモデル(大規模または小規模)に自動的に振り分けるシステムに Google は投資している。 Auto
  • パーソナルコンテキスト: 今後の主要な機能として、ユーザー自身の Google エコシステム(Gmail、Drive)のデータを利用してクエリに回答する機能(例:「メールでやり取りした革のバッグを見つけて」)がある。ただし、プライバシー権限が適切に処理されるよう、現在はテスト段階にある。

推奨されるアクション

フォックス氏のインタビューをもとにすると、次のような取り組みを提案できます。

  • コンテンツの専門性を深める: AI Overview や AI Mode による AI 生成の要約と差別化するために、独自の人間的経験や深い主題知識(例:特定のレシピ、専門的なレビュー)を必要とするコンテンツ作成に注力する。
  • 「Preferred Sources」の活用: パブリッシャーは、ロイヤルティの高いオーディエンスに対し、Google 検索での視認性を維持するために自サイトを「優先ソース(Preferred Source)」登録するよう促す。
    ※すずき注:Preferred Source は日本では未導入。来年の予定。登録用の URL とボタンあり
  • 新しいフォーマットの採用: テキストのみに依存せず、若年層や特定のAIユースケースに響く多様なフォーマット(動画、音声、インタラクティブ要素)に投資する。